はじめに:努力が「帳消し」になっていませんか?

「健康のために週2回運動している」
「食事制限をしているのに、なぜか下半身が痩せない」
「夕方になると、脚がパンパンで靴がきつい」
もしあなたがそう感じているなら、犯人は「運動不足」や「食べ過ぎ」ではないかもしれません。
真犯人は、あなたが今この瞬間も行っている「座りっぱなし」という行為そのものにあります。
今回は、最新の医学的エビデンスが警告する「座りすぎによる代謝の停止(LPLの不活性化)」について、美容と健康の両面から解説します。
これを知らないと、せっかくの努力が水の泡になってしまうかもしれませんよ。
魔法の酵素「LPL」を知っていますか?
私たちの体には、LPL(リポタンパク質リパーゼ)という、非常に重要な酵素が存在します。
これを一言で言えば、「血管の中の掃除機」兼「脂肪燃焼スイッチ」です。

LPLの役割:血液中を流れる「中性脂肪」を分解し、筋肉に取り込んでエネルギーとして燃やしてくれます。
このLPLがしっかり働いていれば、食べたものがエネルギーに変わり、血管はキレイに保たれます。
しかし、この酵素にはある「弱点」があります。
それは、「足の筋肉が動いていないと、スイッチが切れる」ということです。
座って30分で「太りやすい体」に変わる

研究によると、座り始めてしばらくすると、下半身の筋活動が停止し、このLPLの働きが劇的に低下することがわかっています。
これが何を意味するか、美容的な視点で見てみましょう。
① 「食べてないのに太る」の正体
LPLという「掃除機」が止まるため、分解されなかった脂肪が血液中に溢れかえります。行き場を失った脂肪は、そのまま体脂肪として蓄積されます。特に、動いていないお尻や太ももに定着しやすく、セルライトの原因にもなります。
② 血液のヘドロ化と「肌の老化」
脂肪や糖が処理されずに血液中に残ると、血液はドロドロの「ヘドロ状態」になります。
- 糖化(コゲ):余った糖がタンパク質と結びつき、肌の黄ぐすみやシワ、たるみの原因となる「糖化」を加速させます。
- 血行不良:ドロドロの血液は末梢(肌表面)まで栄養を運べず、顔色が悪くなり、ターンオーバーが乱れます。
つまり、座り続けることは、自ら「老化促進剤」を体内で作っているようなものなのです。
「運動している」人ほど要注意!
ここで最も恐ろしい事実をお伝えします。
「毎日1時間ジムで運動していても、残りの時間を座って過ごしていれば、LPL低下のリスクは相殺できない」
医学的には、これを「アクティブ・カウチポテト(活動的な座りすぎ派)」と呼びます。 運動は素晴らしいことですが、それは「プラスを作る」行為です。一方で、長時間の座位は「マイナスを作る」行為。 どんなに高価な美容液を使っても、ハードな筋トレをしても、日中の「マイナス」が大きければ、体は内側から錆びついてしまいます。
今日からできる「美の防衛策」

では、デスクワークを辞められない私たちはどうすればいいのでしょうか?
対策は「ハードな運動」ではなく「こまめな刺激」です。
30分に1回の「リセット」: 立ち上がったり、歩いたりすることで、停止していたLPLスイッチが再びONになります。「座り続けない」ことが何より重要です。
貧乏ゆすり(ジグリング): 行儀が悪いと言われますが、医学的には「ふくらはぎのポンプ作用」を促す素晴らしい動作です。デスクの下でこっそり足を動かすだけでも、酵素の活性は保たれます。
定期的な「循環改善」の手技療法: 既に硬くなってポンプ機能を失った筋肉は、自力での回復が難しい場合があります。
Watanabe私たちのような専門家によるマッサージは、強制的に血流を促し、滞った代謝産物を流すことで、LPLが働きやすい環境(筋肉の柔軟性)を取り戻すサポートをします。
おわりに
「美は1日にしてならず」と言いますが、「老化も1日にしてならず」です。
毎日のデスクワークで、知らず知らずのうちに「太りスイッチ」が入ったままになっていませんか?
美容と健康のために、高いサプリメントを買う前に、まずは「30分に1回立ち上がる」ことから始めてみてください。
そして、固まってしまったスイッチを一度リセットしたい時は、ぜひメンテナンスにいらしてください。 体の内側から「巡る」感覚を、一緒に取り戻しましょう。
論文名: Role of Low Energy Expenditure and Sitting in Obesity, Metabolic Syndrome, Type 2 Diabetes, and Cardiovascular Disease
著者: Hamilton MT, Hamilton DG, Zderic TW.
掲載誌: Diabetes (2007)論文名: Suppression of skeletal muscle lipoprotein lipase activity during physical inactivity: a molecular reason to maintain daily low-intensity activity
著者: Bey L, Hamilton MT.
掲載誌: The Journal of Physiology (2003)文書名: Sedentary Behavior and Cardiovascular Morbidity and Mortality: A Science Advisory From the American Heart Association
掲載誌: Circulation (2016)
